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セントラルキッチンの女王原作:岩倉 豪  編集:藤田 恵介

第二話 RS(ルームサービス)の鷹

セントラルキッチンの女王

太陽が照り付け白く反射し光る砂漠をバイクが砂塵を上げ、砂の海に一筋の道を残して走る。
やや強い砂交じりの風が頬を打ち、スロットルを全開に絞りエンジンが高回転のうねりを上げバイクを運転し、ふと青い空眺め、そして地平線に目をやると砂の山々しか視界に入らない。
遥か向こうに砂の山を駆け昇る何台かの車が砂塵を舞い上がり、わずかだが俺の視界を遮るが、人が砂の海原を渡る難関に挑戦し、それを砂漠が限りない過酷な大自然の豊かさをちらりと俺たちラリードライバーに示したにすぎない。
俺の前にも、横にも、後ろにも、砂塵が舞い上がり何台かの四輪自動車やバイク、トラックが車間距離をかなりあけて走っている。
目まぐるしくサーキットを回るレースではなく、これ地球の過酷な環境を走るラリーレースだ。
競い合うわけではなく、各車両が、ただ淡々と時間を調整しコースを見いだし走っている。
ラリーレースは日々のコースはリエゾンと呼ばれる移動区間と呼ばれる競技区間とで構成され、リエゾンとスペシャルステージを合計した1日の走行距離はおよそ500kmから800kmにもおよび、過去には1,000kmをこえる競技区間が設けられた事もあり、各ドライバーは主催者側からポイントが明記されたルートマップが与えられ、ルートマップをもとにコースを選定し、指定された速度から導き出される通過時刻どおりにチェックポイントを通過、チェックポイントは路面に白線などで表示され場所は競技者に事前に知らされず、その場に対応した高度なナビゲーションが要求され、過酷な自然状況も考慮した能力が要求される。
ラリーレースは決められた道路区間において、指定されたスピード・時間を達成できるように走り、その誤差に応じて減点方式で順位を決める長距離競技レースと異なり基本は速く走ることを競うものではなく、走行タイムのプラスマイナスの誤差の少ない者が勝者となる。

パリ・ダカール・ラリー競技に使用される車両はおおまかに言うと、MOTO モト(オートバイ)、AUTO オート(自動車)、CAMION カミオン(トラック)の3つに分類される。それ以外の参加車両としてバギー、ATVなどがある。
『Moto』すなわちオートバイのカテゴリー
『Auto』すなわち四輪自動車のカテゴリー
『Camionす』なわちトラックのカテゴリ^

何台かの車が定められたチェックポイントを見つけ、そこから方向を変えて次のポイントに向かう。

ラリーレースは、自動車で運転を担当する選手と道案内などを担当する選手とナビゲーターまたはコ・ドライバーの2人1組で車両に乗り込むが、バイクに乗る俺の場合は一人の能力が試される孤独な世界。

サーキットレースと違う点は、完全に閉鎖されたサーキットではなく一般的な公道や私道を用いて行う。安全のため競技中は封鎖することが多いが過酷な走路条件があり、その中では、さまざまなドラマが交差する。

孤独な戦いながら、ラリーレース競技は参加する選手に、チェックポイントの場所の予想や正確な走行距離の管理、計算した時間通りにチェックポイントを通過する能力などを要求され、そして自然との闘いだ、緩いカーブを曲がった先に突如として現れたりし、走行するコースも平坦とは限らない、さらにコースに突如として現れる動物や無責任な観客など含めたトラブルなどがあり一定の速度を保つことは難しい。

「冒険の扉を示そう。そこには、あらゆる困難が待ちうけているだろう。扉を開けるのは君だ。望むなら連れていこう」

そう俺は『Moto』のカテゴリーでバイクを走らせていた。
軽快に砂を書き分け進む、防塵マスクに砂がこびりついたヘルメットとゴーグル砂にタイヤのバランスを奪われぬ様に注意しながらハンドルとスロットルを調整していた。
強い風をいきなり感じ、次の瞬間、突然巻き起こった急な竜巻に車体が跳ね上げられバイクは転倒、俺とバイクは砂の山を転がり落ち意識も闇に転落した。

地・水・火・風・空・・・・色・受・相・行・識・・時輪が回る。

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深い底から水面に上がる意識、考えが浮かぶ『砂漠でいい風はたまにしか吹かない』・・思考が少しずつ戻ってきた。
バイクが転倒したところまでは記憶があり、この事故は何かの掲示であろうか?
バイクの転倒は俺のミス、世間では成功の成否で神の審判という。
どれだけ時が過ぎたのだろう、転倒のショックで気を失っていた。

「ナガタ・・・ナガタ・・ナガタ」

ヘルメットの無線からサポートのメンバーの声で目を覚まし、意識が朦朧としているが、砂漠の炎天下、猛烈な熱気が容赦なく俺の体力を奪う、まるで蜃気楼を纏う灼熱が俺を襲ってくるようだ。
防塵マスクとヘルメットを外し立ち上ると、風の轟音と砂交じりの風が頬をたたく、遠くの風の方向にゴーグルを当て目をやると竜巻が砂を吸い上げながらこちらに向かってきてくる。
俺は体をバイクに自分を縛りつけ、バイクの荷物からマントを取り出し自分が被り、砂の竜巻が通り過ぎるのを待つ、マント越しに自分に砂が積もるのを感じる。
かなり時間が過ぎたマントに当たる砂と風を感じなくなり、マントを取り青天の砂漠に立ち上がり方角を探ろうとポケットに手をやるがコンパスがない。
コンパスを砂漠に落としたのに気づき、そして困った。
ラリーレースのトライアルタイムは過ぎていく、急いで砂にまみれた地図を取り出し太陽を見て方角と位置を割り出しレースに戻ろうとするが、灼熱の暑さに体が疲労し意識がまどろみながら地図を除いている・・・目の前が急に暗くなり喉がカラカラに渇いた。
諦めた瞬間にラリーはおしまいだ。
俺の成し遂げんと決めた志をただ一回の敗北によって捨ててはいけない。

「ナガタ・・ナガタ・・・」
ヘルメットから無線の声が聞こえる。

セントラルキッチンの女王

「永田君・・・」
まるで深遠の闇のなかから俺を呼ぶ声がするようだ。砂漠の暑さでの幻聴。

「永田君・・・永田君」

誰だ?俺を呼ぶのは?しかし幻聴にしては、はっきり聞こえるぞ?
不思議に思っていたら =バチン!= と音がして目の前が急に明るくなる。
痛い。間違いなく殴られた。

「ボケッとしてんじゃね〜よ」

後頭部を擦りながら前を見ると、刈谷市の地図を開いている。
砂漠に立っていたはずの俺が…地図はラリーのルートマップではなく、これはファミレスのルームサービスの宅配の地図だ。
なんで?…
周りを見渡すとファミリーレストランの中に俺が立っていた。
なぜか強烈な殺気の視線を感じる。
殺気を感じる方向に俺は首を回すと、造化の女神が彩った女性の顔立ちをマスクが口元を覆い、手は料理を作るのに使うトンクを握り、見た目は美しいが目つきと言葉遣いの悪い女性がエプロンとコック帽を纏い立っている。

「おやっ・・・綾野さん?」
「おやじゃね?だろ!!さっさと配達に行けよ」

美しくも嫉妬深い月の女神アルテミスが立っていた。
ファミリーレストランのキッチンを支配する女王から、優しさのかけらもない馬頭を浴びながら周りを見ると、なぜかファミリーレストランのフロアのカウンターの前に俺がいた。
フロアの女子高生と女子大生のスタッフが怪訝な顔で俺を見る
俺の目の前には発泡スチロールの箱に納められた弁当箱と配達の伝票がある。

「あれっ?」
「あれじゃね?よ!時間がね?んだ!早く配達に行けよ」

そのひどい口の聞き方だと彼氏できないよ、綾野さん。
さっきのが夢で、今が現実か?それとも今の俺は誰かが夢見る物語の主人公か?
俺は空気を大きく吸い意識をはっきりさせ実を把握しようと努めた。
そうだ、ここはパリ・ダカ?ル・ラリーを走っている砂漠じゃない、ここはファミリーレストラン、そして俺はファミレスで宅配のルームサービスをしている。
そうか…ここは砂漠ではなくファミレス。
俺は使命に気づき…違う仕事中に気づき荷物をまとめ配達に出かける。
ファミレスの外に出た。
7月の夏の熱気が俺を襲う、ファミレスの店内クーラーでヒンヤリと冷やされた体は、外気の熱気を浴び汗が吹き出る。
駐車場の隅に置いてある屋根のフード付きの三輪バイクに荷物を載せ、宅配先までの最短ルートを頭で地図に描き、バイクのキーを回しエンジンをスタートさせ、スロットルを回し走り出す。

「なぜ走るのか? そう、その自問自答こそ、宅配先までの走るエッセンスなのだ」

三輪バイクを巧みに操り刈谷・知立市内の地図を完璧に頭の中を入れ最短のルートでファミリーレストランのルームサービスの配達先を目指す。
俺の名前は永田信吾。

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=RS(ルームサービス)とは?=
では皆さん。ファミリーレストランのデリバリー業務、RS(ルームサービス)を説明しましょう。
ファミリーレストランで人気のお子様ランチ(メニュー)も宅配ルームサービスで注文できます。
ファミリーレストランの宅配メニューはとにかく豊富!
定番メニュー、単品料理、オードブル、と盛りだくさん。
日替ランチも、ファミレスのお店と同じく月曜から土曜までの販売。
ルームサービスは、\1500円以上から。
地域によっては配達できない場所があったり、宅配メニューも違うようです。要確認。
家にいながら、ファミリーレストランの料理を味わえる。
そんなルームサービスがファミレスにはあります。

【ファミリーレストランの業務についてマニュアルより】
ファミリーレストランの業務の一つにルームサービル、略してRSと呼び、ルームサービスとはファミリーレストランで作られた料理を宅配する仕事、平たく言えば出前の仕事であり、ルームサービスは定められた時間内にお客様に料理をお届けするのは必要な義務である。

=PM5:00=
ルームサービスの配達から帰ると、ファミレスの屋根の向こうに、夕方の太陽は西に沈み、黄昏の朧げな夕焼けもすぐにやって来る黒い夜にかき消される。
さようなら夕方の光、君を引きとめておくだけの甲斐性は俺にはない。

入り口をくぐりファミリーレストランの従業員が仕事をするサービスエリアに入った。
カウンター越しに見えるキッチンを見るとスープや味噌汁・ハンバーグソースを温める場所から湯気が上がっている。

5時は決められたシフト(労働時間)の入れ替わる時間、帰ろうとするキッチンのスタッフが動いて帰り支度、この時間の上がり作業・・・説明すると店を退転する前にキッチンで不用になったゴミやバットケースなどを片付ける作業を =上がり作業= と言う。

移り気などとは縁がないキスマークをつけたニヒルな大学生、ラブリー大西君が上がり作業を終えてキッチンから去っていこうとする。
「お疲れさまでした。ハニーが待っているので、お先に失礼します」
満面の笑顔で歯をキラリと輝かせキッチンを見る
「チッ!」
セントラルキッチンの女王である小町綾野さんが舌打ちをしてラブリー大西を睨む、君が見つめれば見つめられた者はみな恐れおののく・・がっ・・移り気などとは縁がない無神経なラブリー大西が笑顔で去っていった。

キッチンに残された二人のスタッフ、林君とツッキーが怒りの闘志を燃やすセントラルキッチンの女王の綾野さんと目を合わせないように仕事をしている。
賢明だ。

この二人のやり取りがファミリーレストランの5時をお知らせいたします。

俺は宅配から帰ってくると、この二人のやり取りを見て時計を見ずとも何時か判断し、いやな判断なし方だがしょうがない。
キッチンhsナイト(5〜9時)の時間の忙しさに備え調理場の材料を補充し、ルームサービスは宅配で使う割り箸・プラスチックのフォーク・ナイフ・スプーンをチェックし宅配の準備に余念無く備える。
地道な作業を淡々とこなしながら、ふと思い出す。
ラリーでバイクを運転し砂塵が舞い上がる中で時計を見る事は危険だ、サポートスタッフにヘルメット内臓の無線で連絡を取るが電波状態が悪いときが多く連絡がとりあえない。
その場合は砂漠の太陽の傾き加減を見て時間を確認する。これは経験だ。
このファミレスでも経験が知識を上回る効果を示すときがある。
ファミリーレストランも時と場合により忙しく、時間を判断する為に特定の出来事で時間を判断する。

『嫉妬深い女王』と『愛する者を待つ男』のやり取りは、この店の午後五時だ。
ルームサービスの宅配の注文も、この時間からオーダーが大量に入り忙しくなる。
ルームサービスの受付は専用のコールセンターが行い、各地区の店のRS専用のパソコンにネットで接続され、宅配先の住所と料理のオーダーがプリントアウトされ、それをルームサービスのスタッフが確認しキッチンにパソコンを操作し調理開始を合図する。

オーダーが入るとキッチンが動き出す。
RS(ルームサービス)の調理はファミレスの店で出す料理と調理手順と調理する材料が違うときがある。
=イン= =サラカン= のキッチンスタッフが動き、 =デシャップ= では弁当箱を取り出しRS(ルームサービス)用の準備に入った。
一定の時間が過ぎ料理が仕上がり、ピッキング作業・・保温用の発泡スチロールの箱に弁当箱を詰め、三輪バイクの運転で揺れ動かない様に弁当を固定し、箸と紙ナプキンやソース類を確認しながら同封し、伝票に記された宅配先の住所を調べ、忘れ物がないか確認し、伝票を箱につめ準備が完了した。

俺は立ち上がりホワイトボードに自分の配達先から戻る時間を書きこみ、RS専用のパソコンの宅配先の表示を配達中にし、ヘルメットと弁当が入った箱を持ち、キッチンとフロアスタッフの全員に
「安全運転でいってきま?す」
と声をかけ
「安全運転でいってらっしゃい」
とフロアの女の子達から声をかけられファミレスの表に出る。
7月の熱気、お盆休みが近くなる頃の愛知県・三河地方の気候は熱帯雨林と同じ、ねっとりとした気候は俺の体内から塩分と水分を徐々に奪う、こうした環境が三河人に愛知県で多く製造され消費される豆味噌である赤味噌を使った味噌煮込みうどん、味噌カツ、味の濃い料理をついつい食べたくなが、中でも味噌煮込みうどんは俺の好物、赤味噌は他地域の麦味噌米味噌にくらべ、煮込んだ際に風味が落ちにくく、小さな土鍋でうどんを煮立て、熱い土鍋をうどんを煮た汁はそのままの状態で食べ、太くて固い麺は「生煮え」「芯が残っている」と他の地域の多くの人に敬遠されることも多いが、味噌煮込みうどんもその一つだ。
鰹節だしを効かせた八丁味噌と交わった濃い汁るが・・・これがたまらなく旨い。
ラリーで熱帯雨林を通るとき、生まれ故郷を思い出し、ついつい食べたくなってインスタント赤味噌汁を飲んだものだ。
そんなことを考えながらファミレスの駐車場の片隅に俺の相棒の三輪バイクがある。
宅配料理の入った荷物を三輪バイクの荷台に入れロックをし、バイクに跨りキーを差込み回す。
パイロットランプが点燈しスターターのスイッチを入れると、小気味よくエンジンの振動が腰から全身に伝わり発信の準備が整い、前方を確認しながらスロットルを軽く回し駐車場から俺は道路に発進した。
駐車場を左折し道路に出ると北に向かい走り出す。
道路の左隅を並走する車に注意しながら、視界の前方と回りを注視し慎重に走り目的地を最短ルートで目指す。
RSは、前方を走る車、横道から飛び出すかもしれない歩行者、そして突然に前触れもなく起こるトラブル、それらに全て対処する必要があった。
ラリーは、前方を走る車、横道から飛び出すかもしれない見物客、そして本能のままの動物、突然に前触れもなく起こる自然のトラブル、ラリーは危険に満ちている。
ラリーとルームサービスの注意する条件は同じ、ただ違うのは砂漠は過酷だが平穏な日本の刈谷の市街地を走る違い、ただトヨタ系列の会社の退社時と重なり車の交通量は非常に多い、それらを考慮し『目標のポイント』をルートマップを見ながらクリアし走る。
ラリーもルームサービスも同じく目的地を地図から拾い出しルートを走る。
そこは同じだ。

セントラルキッチンの女王

23号線の高架下の信号を渡り線路が見えると右に曲がり、線路と並走してバイクを走らせ、このファミレスのルームサービスのバイクで走る上で配達コース最大の難関『一ツ木の踏み切り』、ここの遮断機は名鉄・名古屋線の停車駅である一ツ木駅周辺を通る時の難所である。
何が難関かと言うと普通電車と快速・特急と重なる間の時間帯が夕方に訪れ、下手をすれば13分以上遮断機が上がらず、これに引っかかり開かずの踏み切りとかした『一ツ木の踏み切り』はRSにとって魔の踏み切り、われわれルームサービスの面々は急ぎの場合、一か八かの賭けに出て勝負に出る。
これは賭けだ。
この賭けに負ければ配達先まで間に合わない。
危険を回避する為に、あえて時間がギリギリの遠回りを選択する手段もある。
だが、あえて俺は賭けに出たが・・・・・運命は無情だ「カンカンカンカン・・」信号機が鳴り出し遮断機が下りた。
この時間は長い、諦めるべきか?待つべきか?それが疑問だ。
でも経験上10分以上は踏み切りは上がらない。駄目であろう。もう諦めるしかない。
しかたがない。
俺は店から支給されている携帯電話を取り出しお客様に電話をかけた。
「恐れ入りますファミレスのルームサービスの永田と申します。××様のご注文の料理が道の渋滞の為に遅れまして・・・はい、大変申し訳ございません・・・」
救いの道は右にも左にも存在していない。
太陽は闇に沈み、全てを眠りへと封じこめる夜を迎え、この時間の俺は敗北感を感じた。

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=PM7:30=
午後7時が過ぎ外灯が道路を照らす時間、夜のルームサービスでバイクに乗り俺は一人になるとフッと考える時がある。

それは決まって夜の砂漠の思い出、俺はバイクを地平線に向かいバイクを走らす。
『パリ・ダカール』の名が示すとおり、フランス・パリからアフリカ大陸・セネガルのダカールまでを走るラリーだったが、2009年から名称のみを受け継ぎ、南アメリカで開催されるようになる。
現在の『パリ・ダカール』ラリーは南アメリカのアルゼンチンとチリを舞台に行われブエノスアイレスが発着点となり、この地が舞台となった理由はダカール・ラリーの特徴である砂漠や難コースを持ちながらテロの脅威がないことだ。
以前のコースの中東諸国とアフリカ諸国の国家の不安定さは危険だ、毎年少なからず複雑な政治状況から発生するトラブルで犠牲が出ていた。
砂漠はアフリカも南アメリカも同じだ。
地平線に太陽の残光の深紅の帯が地平線に広がり真っすぐに伸び始め、鮮やかに朱に映る太陽が地平線に沈んでゆく、白い砂漠は、黄色く染まり、砂漠の夜をつかさどる女神ネフティスの闇がだんだんと太陽神ラーが支配する昼の白い砂漠の空を、闇が黒に染めていく、太陽は明日の朝日となる為に砂漠こ地平線から姿を消し、ラリーに参加するドライバー達はドライビングしながら息を飲んでそれを見守る。
砂漠に漆黒の闇が支配する時間がやって来た。

2009年の第11ステージ(アリカ〜アレキパ)、広大な砂漠地帯を駆け抜ける過酷なコース、無事に走り抜けるのも至難、俺は夜の闇に飲み込まれないと思い危険な夜の砂漠をひた走ると暗闇を灯す道しるべの様に、モクモクと黒煙と同時に天を突き上げる炎を見つけた。
バイクを走らせ近づくと、それは運に見放され闇の中にトラブルで燃えあがる車、過酷なラリーでは車両トラブルが良く起きるが、あれはフィルターが砂で詰まりエンジンが燃え上がったのあろう。
まるで砂漠の神はラリーで走る生贄を求めているようだ。
ラリーのドライバーにとって砂漠の夜は、昼の暑さとはうってかわって冷え込み気温の寒暖差が50度以上、ドライバーたちにとって砂漠の昼と違い、月と星の光が煌く夜の砂漠の冷たさはラジエターの水を気にせず走れる。
砂漠の夜の風は冷え冷えとし、俺は防寒のためのに厚手の服を纏い月を見る。
地平線に近い月は大きく見え、月の光は冴え冴えとしていた。
漆黒の夜を照らし冷たく嫉妬深い月の女神アルテミス、彼女が振りまく夜の冷たさは車のエンジンにとって、灼熱の太陽よりも好まれる。
走馬灯のように思い出がめぐろ懐かしく、そして悲しい、だが今の俺はラリーのバイクを走らしているのではない・・・ルームサービスの三輪バイクを走らせている。
今はラリーではないと分かると不思議だ、ホッとした。
安堵感と共にラリーを走っていない寂しさも心に同居していて、この気持ちは単なる未練か分からないが「不思議だ」と思う、ラリーを辞めてから、ラリーで走っている夢をよく見る。
夢の中では、いろいろな仲間が来シーズンのラリーが待っているから、俺を呼美に来たと言う…お前を呼んでいる。呼んでいる。呼んでいる。
ラリーを…辞めるな。辞めるな。と繰り返し俺を引き止めようとする。
ラリーを走っている時は一度もラリーの夢を見たことがない、今までもちろん真剣にラリーのことを考えてきたけれども、ラリーを辞めた途端に夢に出てきた。
ラリーを離れたのは不幸であろうか?
ラリーを辞めて過酷な環境から離れ幸福になったであろうか?
世の中には幸も不幸もない。ただ、考え方でどうにもなる。
だから今も俺は再びバイクに乗る仕事を再び選んだかもしれない。
完全に職種は違うが…(涙)。

俺はファミレスの宅配のルームサービス・・二輪ではなく・・三輪バイク、何にせよバイクで走るのは俺の生きがい。
長い距離のRSの宅配から帰るとファミレスの入口ウェイティング(待合の椅子)に人だかりができていた。
俺は、お待ちになられているお客様の前を愛想笑顔を振りまきながら「失礼します」と軽く頭を下げサービスエリアに戻ってきた。
『う?ん』レーサーであった俺が笑顔でお客さんに挨拶をしているじゃないか!
ハードボイルドに決めていた俺がファミレスに馴染んでいく自分が怖い。
午後7時30分、調理場を見るとキッチンの忙しさは絶頂を向かえデシャップで縦横無尽に活躍するセントラルキッチンの女王・綾野さんが阿修羅のごとく手を振り料理を仕上げている。
RSの注文の確認をしようと綾野さんの顔を見ると・・・思わず動向が開き驚きと笑いの衝動に駆られた。
『眉毛がない。うっすらと眉毛を抜いた痕だけ見える』
俺は奥歯を噛み締め、笑いの神が与えた試練と衝動に耐えようと平然な顔を装い女王のを見た。だが笑いを抑えるのにも限界はある。
俺の微細な表情の変化に鋭い攻撃的な言葉が女王から浴びせられた。

「なにか言いたそうだけど、何?」

猜疑心の深い女王は不振に重い質問してきたが、俺の言うべき事柄は二つあり、職務に忠実な質問と、女王の機嫌を損ねる質問、この二種類だ。
あえて危険を避け仕事の職務に忠実である事で危険を回避する選択を選び答えようとしたが、女王の顔を真剣に見ると再び笑いの衝動を抑え必死に耐えながら震え、そして感情を堪える声で聞いた。

「ルームサービスの料理はいつ頃できますか?」

俺の声の震えは敏感に伝わり、疑い深い女王・綾野さんはカウンター越しに俺を睨んだ後に、片方の眉毛が消えた顔でキッチンを振り向き料理の事を他の部署の動きを見て俺に答えた。

「あ?ちょっと待ってね。ツッキー!このハンバーグ3個がルームサービス?」

綾野さんに質問されたキッチンの人達のなかで林君が「眉毛がない」のに気づいた。
林君の口元が童話に出てくる『王様の耳はロバの耳』の無邪気な真実を告げるように「眉毛がない」と言ってはいけない言葉を指を指しながら喋りだしそうだキッチンが惨劇の場になるかもしれない。
「むずむず」と抑えきれない衝動顔をしている林君、言うなよ!林君!キッチンを血の海に変えたいのか?
だが林君の指は『片側しか眉毛のない女王』…失礼『セントラルキッチンの女王』の綾野さんに指差している。
俺は心の中で叫んだ 『このサラカンのテロリスト!指差すのをやめろ!』
そんなキッチンのやりとりをしていながら、宅配の期限45分間のタイムリミットが刻一刻と迫っていた。
俺は焦りキッチンの平和を保とうとイスラエルのナザレ生まれの大工・イエス・キリストが残した言葉を記した聖書の福音の章を開き
『主は与える愛は皆を救う。皆、自分に忠実に生きよ』
救世主が記した愛を平和を唱える言葉を俺なりに綾野さんに言った。 

「すみません。宅配の期限の時間が迫っていて早く料理を出してほしのですが?
急げますか?」

しかし、運命は残酷、だめだ林君の指が女王・綾野さんの顔を指差している。
ファミレスでもテロが起こる恐怖に俺はおびえた。
イスラム原理主義の聖典(コーラン)を曲解した正義を詠うテロリストの様に平和を破壊するサラカンのテロリスト林君の敵対行動に気づいた綾野さんは、水槽で戦う鮮やかな色の闘魚ランブルフィッシュみたいにキッチンで闘志を燃やし林君を睨む、だが今のキッチンの忙しさは最高潮で思考は料理を作ることが優先、もしかして理性が勝ったのか?
『互いに助け合って料理を行いなさい。そして互いに助け合って料理を提供しNGを出してはならない』
コーランの一説のように出てくる聖者の様な呟きを聞いたのか?綾野さんは無益な殺生を避け料理に邁進した。

「ミスしないように頑張って忙しいの乗り切ろうよ」
と綾野さんが皆に訓示した。

これは奇跡だ、あんな無慈悲に口の悪い綾野さんからマザーテレサが人々を慈しむ愛を感じるのは気のせいだろうか?
しかし良く見ると、怒りをトンクに載せ振り回し料理を睨めつけながら綾野さんが黙ったまま戦っている…訂正、料理を作っています。
ミドルイースト(中東諸国)の平和的解決を放棄したユダヤ教徒とイスラム教徒の聖地奪還戦争の騒乱の如く、キッチンは忙しさと混乱の極み
そんな忙しいセントラルキッチンの状態で一人カウンター越しに手を伸ばし何かを掴もうとしているやつが一人、よく見ると手を伸ばし目を閉じ念を送っている様に手が震えている。

「ツッキー…何をしている?」
「フォースで、そこにある展開票を取ろうとしています。」

見るとサービスエリアの通路を挟んだ台の上に展開票(料理の作り方を書いた紙)が置いてあが、カウンターから台まで2メートルほど距離がるんですが…フォースですか?この忙しいのに。
俺は、そんなツッキー唖然と見ていたが、心を落ち着け優しく展開票を取ってやりカウンター越しにツッキーに手渡すと、お礼の祝福を受けた。

「フォースのご加護を」
「……」

俺は言葉が出ない。
このファミレスの忙しさに・・・ついつい見逃して無視してしまいそうな言動と言うか・・・なんて俺は答えたら言いの?

「あにやってんのよ?新メニューが分からなければ、あたしに聞きなさいよ!」

ツッキーの不審な行動にセントラルキッチンの女王・綾野さんがキッチンの中のツッキーに怒鳴っている。
何を怒っているか分からないが無駄だよ暑さと忙しさで、ツッキー少し狂ってしまったかもしれない。
でもジェダイの騎士を自負するツッキーは『これ』が正常かもしれない。
キッチンの皆は『これ』あたりまえになりつつあり、ツッキーの異常な言葉と行動は肯定され、爽やかな空気の如くはキッチンを通り過ぎていく。
だが今の時間は、忙しさの熱気はファミリーレストラン全体におよび、フロアもキッチンのスタッフの全員は戦いも絶頂に達し忙しさを全力で料理を作り全員は動いていた。

俺はカウンターにキッチンから出された料理をピッキング(宅配料理の梱包)し忘れ物がないか確認しているとツッキーが最後の料理をカウンターに置いて俺に話しかけた。

「永田さん、目を瞑ってください。闇の中にフォースを感じますよ」

俺は静かにツッキーを見返し、何事もなかったように無視して料理が入った箱を持ち「安全運転でいってきま?す」と言葉をファミレスに残し、ドアをくぐり抜け宅配に向う。

=PM10:00=
忙しいキッチンで新人の伊藤君がサラカンで淡々と仕事をしているが、要領が悪く上手に料理を作れないみたいだ。
そんな伊藤君の不甲斐なさを見かねた女王の綾野さんが、直接指導している。伊藤君はおとなしく仕事を習っている様に見えた。
「人の話し聞いてんのかよ!」綾野さんが叫んだ。
どうやら習っているわけではない。怒られているみたいだ。
「は?」気のない返事を伊藤君がした。

「は?じゃねーだろ!先週も同く事を言われなかったけ?」

忍耐強く綾野さんは伊藤君を叱っている。
そうですよ綾野さん。人を導く為には怒るのではなく忍耐強く叱るべきです。
期待すると苦しくなるが、綾野さんの『叱る』は優しさを感じる。
でも注意されたことを意に介せず伊藤君は同じ様に仕事を続けた。

「無視かよ!」

気位高く君臨するセントラルキッチンの女王・古町綾野さんがそこに存在していないと思えるぐらいの見事な無視、綾野さんの顔色がだんだん朱に染まり闘魚ランブルフィッシュの闘魂が溢れ出て、綾野さんの心の中の中学2年生が暴れる寸前、鹿児島の桜島のように頭から火山煙みたいなオーラが見えるようだ。

「伊藤君!話し聞いてる」綾野さんは叫んだ。
「一応、聞いてますよ」人の数だけ人生には真実があります。

・・・・この瞬間、女王の怒りは頂点に達する。

「一応って!!喧嘩売ってんのかよ!!」

キッチンから容赦のない怒涛の怒鳴り声が聞こえ始めた。
駄目だキッチンが女王の怒りで潰れるかもしれない。
誰もがそう思った瞬間にRS(ルームサービス)の宅配オーダーを出すパソコンから注文を知らせる音が鳴り、その音が連鎖し大量に宅配注文が入いり、次々に強烈な注文伝票が出てくる。
キッチンが中東諸国の紛争地帯な状態なのに、こんな時に限ってルームサービスが忙しくなる。神のいたずらか?悪魔の囁きか?
伝票とパソコンを確認すると全部で4件の注文、2件は午後11時過ぎの予約だが、2件は即配(すぐに配達すべき注文)、ルームサービスの忙しさは宅配の注文の入り方で決まる。
一件一件の注文なら問題ないが、2?3件が同時に入り、しかも宅配時間の期限がほとんど同じ場合、一件は別の人間に配達してもらうが、一人で二件持ちをしないといけない場合がある。
宅配時間は一つは10時25分『刈谷市日高町・アーバン日高』、もう一つは10時35分『知立市山町・ハートヒルズ安井』、二つの宅配の方向は同じ、だが一件目と二件目の間の距離は直線で14キロ、多くの遮蔽物と信号、そして道路の状況、数々の要素が、この二件の宅配を一人で配達するのは困難を極めると考える。
これは高度な地図の知識がなければ、この配達はなりたたない。
まさにラリーだ。
ラリーのコースはコースディレクターによる事前の試走に基づいて作られ、ラリーは経由地やルートは毎回変更され、前と全く同じコースを走行することはほとんどない。
ファミレスの宅配コースもは数々のルームサービスの先人達が過去の宅配経験が綿密に地図に青線や赤線で判断できるように工夫や注意書きが合理的に記され、最短で最良の短時間に宅配コースを導き出す答えが記されており、なおかつ時間によって渋滞状況が異なりコースは変更されRSの面々は地図を細かく見てコースを練る。

大量の注文が入ったのを把握し、女王の権限(わがままとも言う)で紛争(勝手に綾野さんが怒っている)を辞め調理に専念し始めた。

綾野さんが指揮する調理場から『二件を一人で行けますか?行けるなら同時に料理を出すんだけど』と聞いてくる。

俺は地図を考えながら覗き「堤防沿いの道を通り日高町を先に行って、手坊沿いを逆行し一ツ木の踏み切りを危険ですが突っ切り、裏道を通り知立の一号線の果てを目指し2件目を回ればなんとかなる。」と可能だと答えた。

女王がトンクを振りながら料理の手順指揮を執りキッチンの全員を動かしだす。
見事なものだ、=イン=のツッキー、=サラカン=の林君、=サラカン付近=でウロウロしている伊藤君に『やくたたず』を役に立たないなりに上手に使っている。そこはうまい。
だが忙しくなると女王・綾野さんの独り言が多くなる・・そこは『ご愛嬌』

「あ?っそのハンバーグ何?あそうかイタリアンバーグだ!でっなんだっけ?
忘れちゃった!あ?ん、ちょっと、それとってよ・・・etc」

このキッチンで =田村のおばちゃま= と =セントラルキッチンの女王・小町綾野= 、この二人の独り言は健全にキッチンが動いている証拠?であり・・誰もが突っ込むことを諦めなければならない摩訶不思議な独り言。

現在10時過ぎ、車の交通量も少なくなりファミレスの宅配三輪バイクを遮る元は何もない、この2件俺の俺のドライビングテクニックと俺のナビゲーション能力で行ける。
順調にキッチンの料理は店のフロアーの料理と重なりながらもオーケストラの流れる旋律の秩序を持った順序で間違いなく作られていく、女王の指揮の賜物だ。
カウンターの上のに次々に宅配料理が仕上げられ置かれていく、俺は丁寧に宅配料理に蓋を閉め、料理の作成時間を示す日付けシールを現在の時間で貼っていき注文票通りに料理を、それぞれの宅配先の箱に仕分けし入れる。
この配達は、行けるのか?無理なのか?
『行ける』と言うワクワクした気持ち
『無理かもしれない』と言う不安な気持ち
ワクワクすると不安は心の中に両立できない。
『何とかしてやろう』なんだかよく分からないが矛盾した考えの俺に闘志の火がつく、料理の忘れの漏れがないか?箸・オシボリ・調味料はオーダー票どおりに入っているか?入念に荷物の点検を行う。
配達完了の予想時間をホワイトボードに書き込み、パソコンの画面を配達中に変え、宅配料理が入った箱を二つ持ち

「安全運転でいってきま〜す」

とフロアスタッフに声をかけ、入り口を抜けて外に出ると荷物をバイクに積み乗り、鍵を差込み回しエンジンのスイッチを入れるとエンジンが回り心地よい振動が俺に伝わった。
少し小雨が降ってき夏の熱風と交じり合い愛知県三河地帯、独特のジメジメした機構に早変わりし、バイクが道路に出ると日高町に進路を取り幾つかの交差点を過ぎ新幹線下のアーケードをくぐると、刈谷市外縁に流れる境川沿いの堤防をフルスロットルにエンジンを絞り走る。

セントラルキッチンの女王

堤防沿いの道は1・8キロ、信号、障害物、なに一つ無い緩やかなカーブを描いた一本道、風を切りこの道の果てを目指す、50キロの法廷速度がギリギリのスピードを出すバイクに当たる風が心地よい。
堤防の道の果てに近づくバイクのスピードを緩め、対向車に気をつけながら左に曲がり日高公園の横を通り目的地を目指す。
目的地の『刈谷市日高町・アーバン日高』に着くと急いで荷物を持ち階段を駆け上がり、伝票で部屋番号を確認してチャイムを鳴らし

「ありがとうございます。ファミリーレストランのルームサービスです」

と告げ、注文の料理を代金と引き換え渡すと、お客様に『ありがとうございました』と言いながら一礼をして階段を駆け下りバイクに跨り次の14キロ先の目的地に向け発進した。
再び堤防沿いを走ると雨が強く風も強くが吹く。
フード付きの三輪バイクはトップヘビーの車体は、車体カバーがヨットの帆の様に風に影響を受けやすく、特に今の堤防沿いを走ると遮蔽物のないところからの横風に弱い、堤防沿いは田んぼや川が堤防より低くあり、吹き付ける風が堤防を昇り俺をめがけて吹く、道の端を走っていたが強い横風に煽られ中央まで車体が持っていかれ、対向車がクラクションを鳴らす。
俺は慎重にハンドルを操作し車体の位置を戻し、この天候の変化で危険になった堤防沿いの道を駆け抜ける。
元来た道を戻りファミレスに向かい通り過ぎ、近道を通るために名鉄沿線の『魔の一ツ木の踏切り』を目指す。
夜の線路沿いは静寂に包まれ線路沿いの道を走る俺の三輪バイクのみ、雨が降る中で『魔の一つ木の踏み切り』の前に出た・・・カンカンカン・・・「あれっ?」・・見る見る遮断機が下りていく・・・俺は絶望に包まれた。
目の前を快速電車が通り過ぎ、どうせこの後は7分ぐらい上下線の普通電車が通るであろう。
俺は『マジに心が折れかけた』・・絶対に間に合わない。
だが!ここで俺は諦めない。
時間内に目的地まで着いてやろう。
これは意地だ、踏み切りを通らないルートを頭の中で瞬時に作成、ラリードライバーであった自分の経験が生きてきた。アレだけトラブルに会い続けゴールを目指した、あの時の経験、そして諦めない気持ち、ファミレスのルームサービスの配達とはいえ、これはラリーだ。残り時間は12分、上等だ、やってやる。
俺は静かにバイクの方向を変え最善ではなく、次善策を脳裏に描きスロットルを握り加速した。
これはリスクを背負った賭けだ、何のリスクも取れない人間は、人生で何一つ成し遂げることはできない。
不可能とは、自らの力で世界を切り拓くことを放棄した臆病者の言葉だ。

=PM10:45=
見事に時間内に2件の困難な配達を終わらせ、俺は不可能と言われた配達を時間内に成し遂げた。
不可能とは、事実ですらなく、単なる先入観、終わり良ければすべて良し。
気分が良く俺はファミレスの岐路につく、先頃からの小雨が軽く降り路面がやや滑りやすくなっていた。

セントラルキッチンの女王

知立市の妙興寺前の交差点を曲がると 『止まれ』 の字が書いてあり、「ま」と「れ」の間にマンホールの蓋がある。
【 三輪バイク→『止ま○れ』停止線 】
道を上のような、こんな感じで走っていたんだが、右に曲がろうとブレーキを握り少しハンドルを切ったところで悲劇が・・・・タイヤが横滑りをはじめ車体が傾き、俺は瞬時に三輪バイクの態勢を直そうと思いハンドルを戻すが、それが悪かった。
俺は右に思い切ってハンドルを切りブレーキをかけるとハイドロプレーニング現象が起きて操縦できなくなり
『ギギギギギ?ドッシャン!』
けたたましい音を立てながら道路を滑り見事に横転し体の痛さに悲鳴を上げた。 
「うお????!!」
肘をすりむき、膝をすりむき、かろうじて服は破れていないが思い切って体を打ち痛みに唸るが、とりあえずバイクを起こし破損カ所が無いか調べる。
ファミレスの三輪バイクは強靭、ミラーが少し曲がっているぐらいで目立った損傷はない。
しかし痛かった。
本当に痛かった。
行きで料理積んでなく幸い、配達のの帰りでよかった。
もし配達前なら料理が引くりかえり違う意味での惨劇になっていたであろう
小雨が降り注ぐ夜、俺は肘と膝からの出血、打ち身の痛さ、皆さん濡れたマンホールと濡れた道路の標識に気をつけましょう。

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=PM11:15=
バイクにコケ、満身創痍で打ち身の部分が痛くて操縦がままならなくなり、なんとかファミリーレストランに帰還してきた。
肘の擦り傷から血を出している俺を見ると、フロアスタッフが青ざめ聞いてくる。

「永田さん!どうしたんですか?」
「すみません。バイクでこけました」
「えっ!」
「別に大きな怪我はなく、すりキズだけです」

心配する人達に大丈夫と答えながら、今日の業務も終わりに近づき上がり作業(変えるための準備)を始めた。
夜も深まり客足も衰え仕事に余裕があるキッチンから心配そうに皆がカウンター前に出てきた。
セントラルキッチンの女王・綾野さんが、ねぎらいの声をかけてきた

「キャハハハハハ、永田君、大丈夫?心配しちゃったよ?ま?永田君体が丈夫そうだからいいけど、バイクのほうが永田君より心配だ。」

・・これは彼女の労いの言葉と受け取ろか、無慈悲な月の女神の言葉は『ああ』無情、
だが俺は「・・・」無言で自分のスタイルを通した。

「永田君ね?ハードボイルドでかっこつけて決めているみたいだけど、『ハードボイルド』って『固ゆで』だよね。あたしゃ半熟卵が好きだけど」
「言っている。意味が全然わからないのですが?」綾野さんどうした?
「かっこつけてるから転ぶんだよ」・・・それが言いたかったのか!

キッチンから出てきた林君とツッキーがあきれて口を開きかけ、林君が見かねて綾野さんを諭した。

「綾野さん。そんな事ばかり言うから彼氏できないんですよ」

それって俺の弁護か?・・えっ!それ諭していない!・・違うよな?、それは本当の事だよ!まずいって、このサラカンのテロリストが!
みるみる闘魚ランブルフィッシュの顔が朱に染まり、訂正です。女王・綾野さんの顔が朱に染まり林君を『心の中の中学2年生が暴れだし』の殺気の篭った目で睨む。
俺は思わず叫んだ!
「バカ!本当の事は言うな!」
・・・あれっ?・・・周りの連中はなんて事を言うんだと俺を哀れんでみている。
俺は言葉を間違えたかもしれない。

「・・・本当の事って、どういう意味?」

綾野さんが静かに睨みながら俺に聞いてきた。
するとツッキーが

「ああ、アレですね。いや綾野さん。永田さんが以前ですね。休憩時間に言ってたのですけど、たとえ綾野さんが40歳になっても綾野さんは今のままの口の悪いままで生きていて、いつの日か綾野さんの尻に敷かれる彼氏が出来て幸せになれるって話ですよね」

セントラルキッチンを守るジェダイノ騎士の言葉に空気を読まないフォースの力を感じて、俺は心の中で絶叫をあげ、次の瞬間運命を悟り一瞬目を閉じ言葉を呟いた。
・・・・「終わった」
キッチンのカウンター前の温度は、恐怖の大王が降りてきて全ての人々の心の空気は絶対零度、冷え切った空間で灼熱の怒りを燃やす女神が一人、綾野さんは眼に闘志を抱きながら無言で俺に向き、両手の拳を顔の位置に置き、女王のカモシカの様な可憐な足が緩やかなステップを踏む、それは蝶が舞っているような優雅なステップ、軽く拳をあげ女王蜂が獲物を針を刺すようなワン・ツーパンチを打つ。
その姿は蜂のように刺す大男たちが力任せに殴り合いをしていたヘビー級に華麗なフットワークと鋭い左ジャブを活用するアウトボクシングを持ち込んだ伝説のボクサーモハメド・アリのボクシングスタイル 、綾野さんの背中にモハメド・アリを見た。

"Float like a butterfly, sting like a bee"
【蝶のように舞い、蜂のように刺す】

綾野さんは体を左右に揺らし軽やかに流れるようなステップワークで俺に歩み寄ると、踏み込んだ左足を踏ん張り軸にして、足から体そして腕に螺旋の如く力を伝えていく。
美しい運動線を描いて綾野さんの左の拳が俺の顔に吸い込まれ、俺の目の前は太陽が炸裂したような光が輝き、全身が破裂してしまった様な痛みが体を駆け抜けた。
俺の全ての感覚が垂直に奈落の底に落ち、俺の魂は闇に吸い込まれるように意識を失った。

=AM0:15=
地・水・火・風・空・・・・色・受・相・行・識・・時輪が回る。
深い底から水面に上がる意識、考えが浮かぶ『われわれの人生は織り糸で織られているが、良い糸も悪い糸も混じっている』・・思考が少しずつ戻ってきた。
砂漠の砂の音が聞こえ、体の自由が利かない
「ナガタ・・ナガタ・・・」
闇のなかから唐突に意識が戻り始める。
俺は砂漠で横転し夢を見ているのか?それとも別の場所で夢を見ているのか?
「ナガタ・・ナガタ・・・ナガタ」
ヘルメットから聞こえる声は遠くから聞こえていた。

「永田君・・・」

まるで深遠の闇のなかから俺を呼ぶ声がするようだ。砂漠の暑さでの幻聴、だけどバイクの横転で打ったのか?顔面に痛烈な痛みを感じる。

「永田君・・・永田君」

誰だ?俺を呼ぶのは?しかし幻聴にしては、はっきり聞こえるぞ?
不思議に思っていたら =バチン!= と音がして目の前が急に明るくなる。
痛い。間違いなくまた殴られた。

「おめ〜、さっさと起きろよ!」

めちゃめちゃ痛い顔を擦りながら顔を上げると綾野さんが立っている。
砂漠に立っていたはずの俺が・・・だんだん思い出してきたぞ、綾野さんにカウンターの前で≪ぶん殴られて≫どれほど時間が過ぎたのであろう。
周りを見渡すとファミリーレストランの休憩室の中に俺がいる。
椅子に座りツッキーと林君が立っている。
どうやら休憩室にこの二人に運ばれたようだ。
俺の前に座るセントラルキッチンの女王綾野さんから強烈な殺気を感じ、殺気を感じる方向に俺は首を回すと、造化の女神が彩った女性の顔立の口元が怒りで歯軋りしながら月の女神が死を振りまこうとしていた。
俺は笑顔をとり作り震える声で

「やあ?・・・綾野さん?」
「やあ?じゃね?だろ!!さっさと起きろ!」

ファミリーレストランのキッチンを支配する女王、美しくも嫉妬深い月の女神アルテミスから優しさのかけらもない罵倒を浴びる俺がいた。
「あれっ?まだ皆いたんだ」時計を見ると全員がシフトが終了し、家に帰る時間が過ぎていた。

「あれっ!じゃね?よ!帰る時間なんだよ!でも帰る前にあんたに話があんだよ!」

その酷い口の聞き方だと本当に彼氏出来ないよ綾野さん。
今日一日の出来事が夢の様に思えたが、目の前の綾野さんは怒りきっている。
いままでの出来事は間違いなく現実であろう。
俺は今から悲劇の物語の最後を演じる主人公、運命を司る美しき月の女神アルテミスの化身、セントラルキッチンの女王・綾野さんが確実に俺を地獄の断頭台に送るであろう。
俺は空気を大きく吸い意識をはっきりさせ気持ちを落ち着かせた。
今日一日を思い出し、ここはパリ・ダカ?ル・ラリーを走っている砂漠じゃない、ここはファミリーレストラン、そして俺はファミレスで宅配のルームサービスの仕事を数々の難関と悲劇が起き休憩室に運ばれてきた。
そうか・・・物語には終わりがある。
俺は運命に身を任せセントラルキッチンの女王・綾野さんに向き合った。
『なぜ話し合うのか? そう、その自問自答こそ、自分の人生を語るエッセンスなのだ』
夢から覚めるようなパンチを打たれ正気に戻ったかもしれない。
今日の、さまざまな出来事は眠っていた俺の心に火をつけ、今日を生き抜いたら再びどのような苦難と難関があろうが俺は南アメリカ大陸を駆け抜けるラリーに戻ろう。
そう誓った。
俺の名前は永田信吾。俺はラリードライバーだ。
再びラリーで走る前に、目の前に怒りを持って座する。女王の鉄槌の裁きを受けよう。
・・・・女王の説教は朝まで続き、この物語は悲劇で幕を閉じた。
それでは皆さん次回の物語でお会いしましょう。

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